皮膚腫瘍、あざ
血管腫

小児の皮膚良性腫瘍

こどもの身体のあちこちに生じる皮膚の良性腫瘍の摘出手術を行っています。

もっとも遭遇するのは石灰化上皮腫です。顔や身体、腕、足などいろいろな部位に生じます。

石灰化上皮腫は、毛根鞘から発生する良性腫瘍です。

皮膚の直下にごつごつと硬くふれることが多い。放置して大きくなると、もともと皮膚のすぐ下にある毛根から発生しているので、皮膚が薄くなってきて、自然に破れたりすることもあります。

その他には、鼻根部や眉毛の外側あたり(眼窩の上外側部)でよく見られる、デルモイド(類皮嚢腫)があります。摘出すると、袋に包まれた腫瘤で、中はクリーム様の内容物がみられ、ときに毛が入っています。

あざ、母斑、ホクロ

黒いあざ、黒子(ほくろ)ですが、小さなホクロなら誰しもあるのではないでしょうか。

黒あざには、母斑細胞があります。色素性母斑ともよばれます。ときに巨大な母斑も生じます。

巨大色素性母斑というタイプでは、悪性化の確率が高いとされています。

近年、「自家培養表皮による母斑の治療」も保険診療が可能になってきました。

患者さんの皮膚をごく少量切り取って培養することで、表皮細胞シートを作成します。
母斑を切除したところに、その細胞シートを移植します。ある意味、画期的な治療法でありますす。

残念なのは、皮膚の表皮の下にある「真皮層」のある培養皮膚はできていないため、薄い表皮だけの移植となります。治療後の見た目や触った感じは、普通の皮膚と同じというわけにはいかないようです。

脂腺母斑

頭皮に生じることが多く、正常皮膚色から、黄色〜ダイダイ色で、やや凸凹しています。丁度、みかんのかわのようです。

脂腺母斑部は毛髪がありません。毛が無く禿げているので、気がつきやすいようです。
赤ちゃんの頃に受診されることが多いです。

年をとると続発性腫瘤が生じることがあり、その中には悪性腫瘍がおきることもあると言われています。

続発性腫瘍には「基底細胞癌が多く、ついで各種汗器官系腫瘍、脂腺系腫瘍、毛包系腫瘍、有棘細胞癌の順といわれています」(皮膚科学会による)


また、思春期になると、脂腺母斑は厚く変化するため、思春期前の小学生までに切除することがすすめられます。

瘢痕、傷あとについて

外傷後に皮膚が修復されると、そこには瘢痕組織が形成されています

するどい刃物で切ったキズが、きれいに適切に縫合された場合などは、切開面が接着した部位に瘢痕が出来ますが、皮膚表面からは比較的幅の狭い線状の傷跡としてみえます。

逆に皮膚がえぐれてしまったような場合は、欠損に肉芽組織が出現してきて欠損を埋めていきます。
この肉芽は徐々に成熟瘢痕に置き換わります。そして瘢痕の表面はうすい表皮細胞で覆われます。また、表皮は正常の皮膚とほぼ同じといわれています。

正常な皮膚ならば表皮の下にある真皮層があります。それが、きずあとでは、修復された瘢痕組織になっているため、表面的にはでこぼことした傷跡になると考えられます。


瘢痕の治療

形成外科では、いかに傷跡が目立たないように、いかにきれいに治るか、追求している学問ともいえるでしょう。瘢痕をきれいに治すためには、組織欠損をなくして創部の皮膚をきちんと縫合することが重要です。


そして、瘢痕は身体が傷を修復した際に、必ず作られるものです。

きずあとは、色味が薄くなることはあっても、無くなることはありません。

手術の傷は、いつ消えますか、と言われることがあります。

時間が経てば、馴染んでくるでしょうが、正確に言えば、全く消えてなくなるということはありません。

また、皮膚には自然の皺もありますから、一件きずが無いように見えるということはあります。



小児の血管腫

血管腫と呼ばれる赤あざ、血管の先天的疾患には、いろいろな種類があります。

単純性血管腫は、生まれつきの血管腫病変で、もっともしばしば見られます。皮膚の真皮層の毛細血管拡張なので、圧迫すると血液が押しやられるため白く皮膚の色になり、圧迫を離すと赤くなります。

血管腫用のレザー治療器が開発されて、第一選択と言えます。色素レザーと言う種類の装置です。

Vビームという製品が有名で、多くの病院でも導入されています。

残念ですが、千葉県こども病院にはありません。

単純性血管腫

いわゆる「赤あざ」と呼ばれる表面が平らで、赤ワインをこぼしたような色合いとされます。

治療としては、赤あざ用のレザー治療が、奏功します。

乳・幼児期は、皮膚もうすく身体が小さいため、相対的に血管腫の表面積も小さいことから、はやめにレザーを開始するのがよいようです。

イチゴ状血管腫、乳児血管腫

生まれたときは無いか、平らな状態であり、その後生後2-4週間くらいから増大して6-9ヶ月の間増大する、表面が莓状に盛り上がった血管腫。


このタイプは。自然消退といって、半年過ぎから徐々に消失していきます。およそ、7歳くらいにはかなり白っぽくなるのが普通です。


ただ、かなり大きなものでは、早めにレザーを照射することで早期に縮小するようにしてあげた方がよい、とも言われています。目の周囲などにできた場合、視野をさえぎってしまうと赤ちゃんは弱視になってしまうため、早期にステロイドホルモン剤内服や局所注射などの治療を行うことも必要です。


その他の血管腫 海綿状血管腫

上記以外の血管腫では、レザー治療の効果は期待できないので、手術治療をおこなうこともあります。血管腫が四肢などでは筋肉内にも侵入していて、すべて切除できないことがしばしばあります。


また、血管腫硬化療法という、硬化剤と呼ばれる薬剤を血管腫に注射する治療法もあります。

現在、健康保険になっていないので、施行が難しい状況です。


リンパ管腫


海綿状リンパ管腫、嚢胞状リンパ管腫

リンパ管組織系の形成異常によるリンパ液の貯留した拡張したリンパ管組織をみる


治療法:切除手術、硬化療法

硬化療法はとくに嚢包型リンパ管腫では効果が大きい

イチゴ状血管腫(乳児血管腫)の薬物療法

小児用の乳児血管腫治療薬 ”ヘマンジオルシロップ”

イチゴ状血管腫は、何も治療しなくても縮小する(自然消退)傾向があります。治療するばあいには、手術、レザー、冷凍法、持続圧迫などの他の治療も考慮して、メリット、デメリットを考える必要があると思います。

ただし、巨大な場合には、正直治療に難渋することもありました。

薬物療法の背景・・・2008年に高血圧の薬「プロプラノロール」が、乳児血管腫に効果があることが報告されて、世界中で治療報告がでました。ただ、全部のイチゴ状血管腫に必ず効果があったわけではなかったです。日本では小児用のシロップ剤が2016年に使えるようになりました。

もともと、成人の高血圧の治療薬ですから、血圧低下がおこります。
そのため、千葉県こども病院では小児科の血液腫瘍科の先生が、全身状態をしっかり観察しながら入院治療として行うことがあります。


製薬会社マルホによる「乳児血管腫の治療」解説サイト

兵庫県伊丹市の小児科岡本医師のブログ記事
乳児血管腫の治療法。プロプラノロールの適応と17の注意点

<m3.comのwebセミナー「乳児血管腫セミナー2017」の内容とのことで、専門的な表現になっています

ヘマンジオルシロップ(プロプラノロール)の17の注意点

上記より引用しています

  1. 禁忌と慎重投与の項目を確認しましょう。

  2. 事前の心電図検査は必須です。

  3. 成育医療センターでは心エコー検査も必須としています。

  4. 潰瘍のある乳児血管腫はヘマンジオルの絶対適応であり、かつ慎重投与でもあります。高K血症に注意し、時々採血しなければなりません。(採血間隔については、アドバイスできません)

  5. 下痢の副作用が多いです。国外で5.3%、国内で12.5%に見られました。脱水を起こすような下痢ならヘマンジオル中止もやむを得ません。軽度の下痢なら少し様子見、少し重症な下痢なら減量して様子見などがよいようです。

  6. 体重増加に伴って、服薬量は調節しましょう。

  7. 乳児血管腫は、普通は命を奪うような病気ではありません。美容面でヘマンジオルを導入するなら、安全面を第一に考えましょう。

  8. 低血糖を起こすことがあるので、食後に内服しましょう。胃腸炎などで食事が取れない時は、ヘマンジオルはいったん中止しましょう。

  9. 薬を吐きだしたら追加投与は不要です。安全面を第一に考えましょう。

  10. RSウイルスなどでぜーぜーしてるときも、ヘマンジオルはいったん中止です。

  11. 効果がある症例では、ヘマンジオルを開始して数日で色素が少し薄くなるように感じます。

  12. 投与から24週間後で約80%にヘマンジオルの有効性が確認されました。まだ治っている過程であるならば、24週間以降もヘマンジオルを継続して問題ありません。

  13. 乳児血管腫がよくなったと思ってヘマンジオルを終了させても、30%で再燃を認めます。そのときはまたヘマンジオルを再開しましょう。再燃させないために、漸減終了させるという方法をとっている施設もあります。

  14. 効きが悪くて痕が残りそうなときはレーザーと併用します。小児科だけで抱え込まず、形成外科や皮膚科にも相談しましょう。

  15. 低出生体重児で生後5週以内であっても、命に関わるような場所に血管腫がある場合は、ヘマンジオルが考慮されます。リスクとメリットをてんびんにかけて慎重に投与します。

  16. クリニカルパスが有効です。小児科、循環器科、形成外科、皮膚科などいろいろな科が参加するなら、クリニカルパスをぜひ作りましょう。

  17. 新しい薬ですので、現時点(2017年3月)では2週間までしか処方できません。遠方からの受診であれば、処方だけは近医にお願いし、フォローは基幹病院で行うという方針の施設もあります。